海外留学

医師が海外で臨床医として働く5つの意義

臨床研修センター長
米国内科専門医
米国腎臓内科専門医
赤井 靖宏

海外で医師として働くと聞くと、多くの医学生や医師が興味を持ってくれます。海外で働く日本人医師のイメージは、海外でその国の言葉を駆使してはつらつと働く医師、恵まれない地域で働く医師などが思い浮かぶことでしょう。海外で働くことは、単にそこでなしとげた業績(症例経験や研究成果)を大きく超えた影響を人生に及ぼします。最近は、海外での勤務に興味を持つ医学生や医師が少なくなっていると聞きます。海外で臨床医として働くことは、診療科にもよりますが、さほどハードルが高いことでもありません。医師としてのスタートをきる研修医のみなさんには、ぜひ積極的に海外での経験を積んでいただきたいと思います。海外で臨床医として働く意義を5つのポイントで提示したいと思います。

1. 異文化を経験する

海外で働くためには、海外に住む必要があります。外国で暮らすと日本にいてはわからない多くのことを感じます。文化背景が違う国で働くと、ニュースなどでは知り得ないその国の実情を感じることができます。日本は、比較的単一の民族が暮らす国とされていますが、多くの国は違います。宗教も育った環境も違う人たちが様々な独自文化を持ち、それらの文化を交流させながら暮らしています。海外で暮らすと、病気を文化のコンテクストの中でとらえることがいかに重要かを痛感します。臨床であれ研究であれ、海外で働くと程度の差こそあれ「病気と文化」の関連を体感することでしょう。

2. わが国と違う医療環境を経験する

わが国の医療環境に慣れた目で海外の医療環境を見ると、医療環境が国によって大きく異なっていることがわかります。わかっているつもりでいても、わが国の(比較的)恵まれた医療環境を当たり前と思っていると、他国の医療環境にショックを受けることが多いと思います。私たち医師は、ある医療環境のルールに従って診療をしています。それらのルールの違いを知ることによって、「よりよい医療環境とはどのようなものなのか」について考えるきっかけになります。国民皆保険を享受してきた日本は、医療費の増加に苦しんでいます。また、国民の医療格差も広がっていると言われます。異なる医療環境の経験は、あなたをひとまわり大きな医師に成長させることでしょう。

3. 日本の医療の未来を見る

海外、特に欧米の医療はわが国の10年先を走っています。「日本はそんなに遅れていない!」と憤る方もおられるかもしれませんが、先進国で医療を経験した医師の多くが同様の感想を持つと聞きます。誤解のないように付け加えると、決して「医療の内容」が大きく遅れているわけではありません。医療に対する考え方や医療のやり方が遅れているのです。欧米の医療を経験することは、わが国の医療の将来を見据えることになります。また、医療環境が十分でない国での経験は、わが国がそのような国にどのように支援をするべきかを考える契機となるでしょう。

4. 医師の作られ方の違いを知る

医師の養成法は国によって異なります。わが国では近年、医学教育、特に臨床教育が大きく変わろうとしています。やっと、ほんとうにやっとという印象ですが、student doctorの位置づけについて法的解釈も定まってきました。医学生の教育や医師の養成法に興味のあるみなさんは、ぜひ医師養成の現場でその実際を経験すべきです。医学教育には、全ての医師が多かれ少なかれ関わります。実際に自身が海外で医学生を教育したりする経験があると、医学教育に対する考え方が広がります。

5. 多彩な疾患を経験する

多民族が生活する国で働くと、わが国では経験することがほとんどできない疾患に遭遇します。多彩な症例経験は医師の宝です。また、同じ疾患であっても、病気の診断や治療プロセスがわが国とは異なっていることが分かる場合もあります。EBMをどの程度重視するかについても違いがあるかもしれません。多彩な症例診療は、今まであげてきた4つのポイントをすべて含みます。症例経験を積むと、臨床的実力をつける以上の深い影響があなたの医師人生に及ぼされます。

ぜひ、海外での経験にチャレンジしてください!