学位取得

学位:博士(医学)取得

副センター長
糖尿病・内分泌内科
岡田 定規

医学部卒業・医師免許取得後には、臨床医としての専門医取得の他に、医学研究者としての学位:博士(医学)の取得というキャリアパスがあります。学位の取得には大学院に進学し4年間の研究課程を修めることが原則ですが、最近は臨床医として病院勤務を続けながら大学院に進学する制度(社会人大学院生)や長期履修制度、成績優秀者においては3年で学位を取得できる早期課程修了制度も準備されています。

さて、大学院への進学、学位の取得にどのような価値があるのか。それは昔からしばしば話題になり、その点を議論した書籍等も出版されています。例えば、学位取得のメリットとして大学の教員職/研究職や病院の管理職等、一部の職位には学位の取得が求められる場合があり、キャリアアップのために有用(必須)となる場合があります。ただ、実際にはこの点だけを捉えて大学院に進学する人は稀と思われ、多くは自分が専門とする領域の知識を深めることを目的として大学院進学を決断するのだと思われます。以下に私自身の体験に基づく考えをお話します。

私が大学院に進学したのは2007年で、医学部卒業後5年間、市中病院で初期/後期臨床研修を受けた後でした。後期研修で「糖尿病内科」を専門にすることを決め、臨床医として専門医研修を受ける傍ら、先輩医師に従って学会にも参加しました。学会には全国から多くの医師/研究者が集まって新たな知見が議論されるのですが、その議論の多くが“基礎医学的な”知識を持っていないと理解出来ない内容でした。何事も実体験の伴わないものは理解が進まないもので、当時これらの“基礎医学的な”内容をいくら書籍で読んでも頭に入らないというジレンマを感じていました。そのような中、ある研究会で聞いた“基礎医学的な”話題が非常に明解で面白く、後期研修後はこのような研究をしたいと考えるようになりました。そこで、母校である奈良医大の先生を頼って多くの方にお願いし、希望する大学院に進学することが出来ました。当初、大学院での研究生活は、病院での臨床業務とは異なり、医師としての責任感から解き放たれた開放感を感じました。しかし、そのような感覚も束の間、次第に遅々として進まない研究に不安や焦りを感じるようになりました。考えれば当たり前で、大発見がたやすく駆け出しの大学院生に転がってくる筈がありません。出口があるかどうか判らない洞窟を探検しているような不安感を感じていたのを覚えています。多くの先輩方の助けを得ながら何とか論文を纏め、学位を頂いたのは大学院入学から4年を少し過ぎた時でした。

さて、大学院生活を経験し私が得たものは何だったのでしょうか。当初目標にしていた“基礎医学的な”知識は実際にはあまりに膨大すぎて、ほんの一部しか習得することはできませんでした。しかし、“基礎医学的な”ものの考え方、実験手法や論文の読み方/書き方、統計学的手法の基礎、一緒に研究した先輩・同僚等、多くの財産を得ることが出来ました。研究者としては学位を取得してようやく「入り口」だと思いますが、その過程では臨床医としての病院勤務だけでは得られなかった多くの経験を得ることができました。「大学院での経験は医師としての幅を広げてくれる」と言う人がよくいますが、この事実も実体験してようやく理解することができました。このページを読んでいる皆様が学位の取得に少しでも関心があれば、是非とも大学院進学を検討することをお勧めします。きっと投資した以上のものが返ってきますよ。